CR-39と呼ばれるプラスチックは,プロトンや重イオンに対して高い感度を有する固体飛跡検出器として知られ, 電子線やガンマ線に感度を有しないことと相まって,個人被ばく線量計の中性子検出用素子に採用されているほか,環境放射線計測や宇宙放射線計測,高強度レーザー駆動イオン加速のような複雑な混成場でのイオン弁別,宇宙線物理学や原子核物理学などの自然科学分野においても広く用いられている.一方で,なぜCR-39が高感度なのか,どのようなメカニズムで飛跡が生成するのかといった基本的な原理は未だ明らかになっていない.その発見から40年近くも経過するにもかかわらず,CR-39を超える感度を持つ材料が見出されていない原因はここにある.本稿では,固体飛跡検出器の歴史的経緯や重イオン検出原理について簡単に触れた後,CR-39の物理・化学的性質を踏まえて,潜在飛跡と放射線化学損傷との関係を調べる重イオン飛跡生成メカニズム研究の現状について解説を試みる.