自然円二色性(CD)はキラル物質の高次構造を敏感に反映することから,タンパク質の二次構造解析など,特にライフサイエンス分野における重要なツールの一つとして広く利用されている。CDはキラル物質の光吸収での左右円偏光の差であり,赤外~紫外域では透過型位相子などの光学素子を用いて,円偏光状態の光を発生させている。それら透過型光学素子の透過限界は現状で最短150 nm程度であるため,これより短波長領域の真空紫外~軟X線域などでのCD計測は不可能であった。
多くの生体分子は真空紫外や軟X線領域にも特徴的な吸収を示すため,これら領域でもCDを計測することによって,より高精度なタンパク質構造解析や従来装置では対象外であったσ結合しか有しない糖・糖鎖などの生体関連物質の構造解析などが期待されている。
そこで筆者らは偏光アンジュレータを円偏光光源とすることで,真空紫外から軟X線に渡る領域で世界初の生体分子のCD計測を行ってきた。真空紫外域ではアンジュレータのみで偏光を変調させることでCDを高感度検出する産総研独自の装置の開発に成功した。本稿では上記成果に関して真空紫外域と軟X線域とに分けた簡単な紹介を行う。